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プロが語る家づくり
 | 2019.07.19

Vol.1 日本の住宅基準はかなり遅れている

小暮:
松尾先生に初めてお会いしたのが確か3年前でした。最初はエアコン1台で全館空調なんてありえないと驚いたのですが、勉強を進めていく中で、そんな家が出来たら夢の様だと思うようになりました。そして、去年の7月に当社もモデルハウスを建てて、測定したら本当にその通りになりました。造る気になったらできるんだと自信になりました。今日はよろしくお願いします。

松尾先生:
はい、よろしくお願いします。

小暮:
まず今の日本の住宅の断熱基準というものについて、先生のお考えを聞かせて下さい。

松尾先生:
いつも講演で話すことなのですが、ご存知の通り、今の日本には断熱に関する基準がなく、2020年にようやく出来ようかということで、今、業界が騒然としています。ただし、決して理想的な基準ではなく、あくまで最低基準です。「健康で文化的な最低限度の生活」みたいな、言うなれば最低賃金みたいなものです。ところが国から基準が出されると、この業界の人たちはそれを理想的な基準のように捉えてしまう人が凄く多い。

小暮:
それさえクリアしてれば、問題ないだろうって考えてしまう。

松尾先生:
そうです。そこが不幸の始まりなのです。

小暮:
確かドイツでは、アパートなどでも、最低温度基準があるんですよね。

松尾先生:
ありますね。最低室温規定は、ドイツに限らず欧米の先進国であれば国や州毎に定められています。大体18℃から21℃の間ですね。日本みたいに、冬の朝起きたら、ファンヒーターの温度計が10℃を下回っているような国って、先進国では一つもありません。

小暮:
私が昔住んでいた家だと冬の朝リビングが5℃とか普通でした。恐らく今、造られている家でも、2桁いっている家ってあんまり多くない様な気がします。

松尾先生:
少ないと思います。日本では30代半ばで家を建てられる方が一番多いのですが、今、男性の平均寿命が80歳、女性が86歳、平均83歳と言われています。最後の10年ぐらいは施設に入る方が多いことと考えると、73歳ぐらいまでを自分の家に住む人が多い。約40年です。さらに平均寿命は伸びつつあるので実際は40年以上になるでしょう。

小暮:
なるほど。

松尾先生:
また、四季というと1年を3か月毎に分割しているイメージですが、実際には冬が一番長い。今、春と秋は短くなって、梅雨を含めて夏が結構長くなっている。

小暮:
今や一年の殆どが夏と冬なんですね。

松尾先生:
そうです。中間期の気持ちの良い時期が殆ど無いのが今の日本です。そうなると、やっぱり冬に10℃を切るっていうのは、人間が住む環境としてはもう全然ダメ。実際に「半年×40年間」も毎朝寒いのを我慢して「よし起きるぞ」っていうのは、健康の観点を除いても、やっぱり全然良くない。

小暮:
そうですね。

松尾先生:
イギリス等の国で20万件の家の室温と健康の関係を統計調査した結果がありまして、それによると、室温19℃以下はやはりよろしくなくて、理想的には21℃以上あった方が良いっていうのが、明確に示されているのです。

小暮:
日本には「我慢が美徳」みたいな考え方も残っていますが、それで健康を害したら何にもならないですよね。

松尾先生:
そうです。最近はヒートショックっていう言葉が一般的になりましたが、ヒートショックは確かに60歳以上によく起こる現象ではあるのですが、先日ご一緒に講演した大学の医学部長さんのお話によると、「ヒートショックの原因となる血管内のプラーク(塊)は40過ぎぐらいから、ちょっとずつ溜まり始め、それがかなり成長したところで60歳ぐらいでバンって爆発する」ということでした。

小暮:
だんだん詰まっていくわけですね。

松尾先生:
そうです。だから「40過ぎぐらいから暖かい家に住む事が凄く大事で、60過ぎてからでは遅い」とおっしゃっていました。

小暮:
なるほど。それにも関わらず、日本の国の規定にある断熱性能は物凄く低いじゃないですか。例えば2020年からの省エネルギー基準ですと、専門用語で言うQ値は恐らく2.7くらいですよね。

松尾先生:
はい、そうですね。

小暮:
C値についてはまだ、規定もありません。

松尾先生:
無いですね。

小暮:
おかしな話ですよね。なぜ日本はその程度の規定しか作れないのでしょうか。

松尾先生:
僕も色んな委員会などに大学の先生と一緒に入っているのですが、やっぱり国っていうのは、憲法にある「健康で文化的な最低限度の生活」までしか義務化したくないんですよ。もし、理想のレベルで規定しちゃうと、できてない場合に処罰の対象になってしまい、色々大変なんです。もう一つは、既存の業界が、工場のラインを変えないといけなくなるので、規制を変える事に猛烈な抵抗がある。大多数の国民の健康、幸せ、経済性よりも、そういった「あちらの事情」の方を遥かに重要視して作られているっていうのが、実態かなと思いますね。

小暮:
それには私も思うところがあります。日本の窓っていまだにアルミが主じゃないですか。やっぱり最低限樹脂にするべきだと思うのですが、ウチの取引あるサッシメーカーさんは樹脂サッシにすごく真剣に取り組んでいるので、「アルミをやめて樹脂だけにすればもっとコストが落ちて、多くの人に使ってもらえるんじゃないの?」って言ったら、「その通りだけど、いまだにアルミをたくさん買ってくれる業界があるので、やめると経営が成り立たない」というのです。

松尾先生:
それもやっぱり国に最低基準が無い事が大きな原因です。韓国や中国を含め、海外はほとんどの国が窓の断熱性能に最低基準を設けてあって、粗悪な窓が市場に出ない様になっている。ところが日本は一部のメーカーが、良い窓を広げていこうと一生懸命頑張っているものの、じゃあ全部良い窓にしようとした瞬間に、安物ばっかり作っている会社さんにシェアを持っていかれてしまう。正直者が馬鹿をみる。悪貨が良貨を駆逐する。この国はまだそんな状況にあるわけです。

小暮:
それは非常に残念な話ですね。われわれ住宅会社の責任も大きいと感じます。

対談第一弾

Vol.1 日本の住宅基準はかなり遅れている
Vol.2 夏は入れない、冬は入れる
Vol.3 出木杉くんが嫌われる
Vol.4 日本の家は「裸にカイロ」
Vol.5 絶対に確認すべき3つの数値
Vol.6 安易な工法やシステムに騙されてはいけない
Vol.7 共働き夫婦の時短を考える
Vol.8 努力しない「ラーメン屋」は淘汰される

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