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プロが語る家づくり
 | 2021.04.02

Vol.14 適正な断熱性能はこのように考える

小暮:
私自身も迷う質問なんですけど、すごい断熱材を使って、Ua値をどんどん低くするとか、断熱をあげるっていうのは、一つの手法としていいじゃないですか。ただ、地域によりますけど、例えば関東とかね、そういうところでお金をかけてどんどん断熱をすごくするんだったら、逆にそこまでしなくても空調機をうまく使った方が逆に結果は出やすいし、トータルコストとして安かったりするじゃないですか。この場合どっちが正解なのか。

松尾先生:
これはどっちが正解っていうより主義の問題ですね。どこまであげればいいんですか、っていうのは端的に何度も言ってますが、何年のトータルコストを一番安くしたいんですかっていう質問とイコールなんですね。30年なのか40年なのかによって理想的な断熱性能って変わってくる。当然ながら長くなればなるほど最初の時点で超高断熱にしておいた方がいいんですよ。ところが、例えば60年で一番コストが安くなるようにしようとすると、ほんと最初にかなりの高断熱になって、工務店側だとしたらその値段だったらお客さん側に高いと言われてしまって、売れないもしくは他社に負けてしまう。

小暮:
よくある話ですね。

松尾先生:
そこで僕が全てのお客さんに推奨しているのが30年。そもそも30年くらいはローンを組む訳だし、大体の人が35〜40ぐらいに家を建てるっていうのもあるので、30年っていえばどんな人でも60くらいまでは生きる人が多いので、30年っていうのは最低限のレベルとして満たそうとそうする。そうするとと、G2っていうのは絶対に必要ってなってくるんです。まぁそういうふうに考えていますね。それが50年も目指すとなると、それなりにイニシャルはかかってくる。

小暮:
やっぱり付加断熱って話になりますもんね。

松尾先生:
電気代が一定と考えて計算するのか、世界的な標準例としては年率3%ずつあがっていくっていう想定で考えるのかによっても、最適基準は変わってくるんですよ。でも50年先の電気代がどうなっているかなんて読めないので。だからちょっとこれはいい方に傾くか悪い方に傾くかわからないんですが。

小暮:
高性能住宅ってあるじゃないですか。あれって確か北海道かなんかでね、Q値1以下の住宅を作ると暖房費が3分の1?

松尾先生:
その地域の次世代省エネ基準の3分の1になるっていうところが当初の目標として掲げられていたと思いますね。

小暮:
ということは、あくまで北海道なので、例えば温暖地でキューワンを作らなくても逆にいいっていうか、理屈で言うとね。

松尾先生:
本来の新住協さんのキューワンの定義で言うと、6地域で言うと、Q値1まではいかなかったと思います。キューワンの本来の定義とQ値1っていうのが混同されてしまっているところっていうのは結構あるのかなっては思いますね。

小暮:
たまにうちに来られるお客さんなんかでも、勉強をしてきたんでしょうけど、群馬県で冬寒くても一瞬マイナス2℃かそれくらいで、でもQ値1にしなきゃいけないんでしょって言われて、それは別に好みとしてはいいんだけど、Q値1の家を作るためにやっぱりすごいお金かけなきゃいけないんですよね、って言われちゃうとそれもちょっと違うのかなって思っちゃいますね。

松尾先生:
今度動画でいつか言おうと思っているんですけど、Q値がわかって日射取得量がわかれば、あとはエアコン実効COPがわかれば、足し算掛け算のレベルで誰もが納得できる範囲で、そこから暖房費がいくらくらいって概算はできるんですよね。

小暮:
そういうのがあれば、例えば私のところであれば、これくらいの性能の家にしておけば別にいいじゃんってところですよね。

松尾先生:
結局じゃあ、例えば元のQ値が2だとしてそれを1.5にするだとか、Q値1.5の建物を1にするってなった時に、Q値を0.5あげます、それをやるのに予算が100万、施工コストがアップするとします。それによって年間の暖房費が1万円下がります。これをその方がやるかどうかみたいなそういう話なんですよ。これは原理的に言うと、光熱費がこのままいっていたとすると回収するのに100年かかるという話なんですよ。

小暮:
例えばうちの会社で、年間の冷暖房費このくらいなんですと。こっちにやるとこんな変わると。じゃあいくら下がるかと言うと、これくらいしか下がらないですよ。それを割ると、例えば60年かかるけど、それでいいかって話になるんですよ。

松尾先生:
僕はよく究極の室内環境って言い方をしますけど、究極の室内環境を求めたりするっていうのだったら、これはやればいいと思いますね。だから、30年のトータルコストを追求する人なのか、40年なのか、50年なのか、はたまた究極の室内環境を求めるのか、もしくは私は環境主義者だからCO2を減らすことを至上命題としているみたいなところの正義がどこにあるかどうかという話ですね。

小暮:
たまに、すごく高性能じゃないと寒くなっちゃうと思い込んでいる方もいる。

松尾先生:
寒さの話も主観論になってくるから、寒さを語るときや暑さを語る時とかは、いつもPMVっていうのを出しますけど、3000人くらいの被験者を元に出されたデータですけど、この条件だったら95%の人が暑いと感じるとか寒いと感じるとか、全部定量的に出るので、PMVによってISOで規定されているところっていうのが暑いっていう人も寒いっていう人も10%以下になるようにしなさいっていうのが国際基準の考え方なんですね。だからそこの枠に入ってなかったら寒いって言ってもいいのかなって思いますね。そういう考え方が一番客観的だと思いますね。

小暮:
確かにたまにすごく暑がりの人も寒がりの人もいますからね。

松尾先生:
例えば同じUa値であっても、暖房計画がうまいか下手かによってPMVって絶対変わりますし、Q値が1じゃないと必ず暖かくできないっていうことはなくて、暖房計画をうまくやったQ値1.5でも暖かくはできるんですけど、その場合、何が違うのかって言ったら暖房費。ただその時の暖房費が下がる、そこだけを見たらそれは絶対Q値1の方がいいってなるんだけど、でもそのQ値1.5から1に持っていくときに、50万上がるのか100万上がるのかみたいな話と、投資回収年数の話になるんですよ。

小暮:
すごく高性能な家を建てなければ、とんでもないことが起こるみたいに考える人もたまにいます。

松尾先生:
一昔前で言ったら、Q値1.5っていったら超高性能住宅でした。それが今やQ値1以下っていうね。先々週くらいに、鹿児島に超高性能な高断熱住宅を建てられた知り合いがいて、11月でまだ外気温はそんなに下がってないのに太陽光が下がってきて、ちゃんと南側に庇がついている建物なんですけど、直射日光が入って、11月なのに室温が39℃になってしまった。僕も入りましたけど、明らかに夏の失敗をしている暑さですね。ドライサウナっていうのかな。1時間大きなドアを開けっぱなしにしても26℃くらいまでしか下がらなかったですね。

小暮:
そう考えると、たまたま当たっちゃったんでしょうけど、高性能すぎても問題が起きるというね。

松尾先生:
日射をちゃんと制御できていれば問題も起こらないし、あと本州の一番最南端っていうのもあったと思うんですけど。

対談第三弾

Vol.1 Ua値やC値だけでは家の性能は語れない
Vol.2 太陽光発電は得か?損か?答えは明確
Vol.3 もしもの大災害は必ず起こると考える
Vol.4 住宅会社の営業トークは嘘だらけ
Vol.5 営業マンの嘘を見抜く方法
Vol.6 家を知らない人が家を売る怖さ
Vol.7 「断熱材で調湿」は「濡れた布団で寝る」のと同じ
Vol.8 窓と日射について抑えておくべき基本
Vol.9 営業マンより消費者の方が知識量は上
Vol.10 YouTubeの中にもたくさんの嘘がある
Vol.11 耐久性のポイントは耐震性と水害対策
Vol.12 おすすめできない製品・部材とは
Vol.13 カタログ数値に踊らされてはいけない
Vol.14 適正な断熱性能はこのように考える
Vol.15 30年先を考えたサッシの選び方
Vol.16 いつまでも美しい家のデザインとは