小暮:
また話変わりますけど、具体的な設計手法について松尾先生に質問が来ています。我々はパッシブ設計と言って、太陽熱をうまく取り入れて、南面の窓を大きくして断熱ガラスを入れると。北と西と東は遮熱ガラスで0.5平米以下にしてと言う基本がありますが、「南面にマンションが建っていて日射取得がそもそも少ない場合はどういう家を作ったらいいんですか?」と言うものです。
松尾先生:
その場合は、例えば南の窓を大きくするっていうのは冬の角度の低い日射入る場合の南の窓と言ってるわけで、南側でどう設計上の工夫をしても、冬の角度の低い日射が入らないのであれば、それは本当は小さくした方がいいですね。もしくはそういう場合だったら、そういう住宅こそ僕はあまり個人的に好きではないけど、天窓を作るとかそういう場合もあるし、ハイサイドライトを一番高いところに、屋根をこういう風にずらして窓のところにこう入れるみたいなね。そういうやり方がいいと思いますね。
小暮:
あと家ってどうしても機械で暖房しなくちゃいけなくなるでしょうから、やっぱり断熱性能も高めないといけませんよね。
松尾先生:
そうですね。だから日射で取れないんだったら断熱でその分取ると。断熱性はダウンジャケットで例えるとわかりやすい。何の断熱材を何ミリ使うっていうのが断熱性能なんですね。ダウンジャケットなら、普通の綿が30ミリの服なのか、ダウンが30ミリの服って言ったらみんなどっちが暖かいかっていうのは知っているわけですよね。ダウンが30ミリの方が暖かいわけですよ。
小暮:
わかりやすい例えですね。
松尾先生:
それが断熱性で、気密っていうのは袖口がきちんと閉まっているかどうかです。それで、もう一個大きな要素が、その格好で同じエリアだけど日陰にいるのか日向にいるのか、暖かさがどれだけ違うのかっていう話なんですよ。一歩動いて、ビルの影のところに入るのか、日向に行くのかってどっちの方が暖かいかっていうのは、多分一般の方でもすぐ想像できると思うんですけど、これが断熱、気密、日射取得ってことなんですよね。
小暮:
太陽があって光の入りがいいのに、わざわざ窓を小さくして入れないっていうのもおかしいですよね。
松尾先生:
逆に日陰にいる時間が長いような住宅しかできないんだったら、その分日射による暖かさを入れられないから、服をより分厚いのにするしかないと。同じ暖かさを得ようとすると、そういう理屈になりますね。
小暮:
あとは位置ですね。位置を変えてみるとか。
松尾先生:
少しでも日陰から遠ざかる方に、要するに日の当たる方向にずれることができるんだったらね。
小暮:
でもこれが本来の設計というものなんですよね。設計の基本ですよね。これが意外に、一般的な住宅って守られてないケースが多いですよね。
松尾先生:
まぁ誰も考えてないですからね。多分、太陽のことを読み抜いて、南の窓大きくするっていうのは建物単体でのセオリーっていうのは、僕より先人はたくさんいらっしゃいますけど、民家の建物を避けてできるだけ最適な位置に配置するみたいなことを本格的にやり始めたのは、多分僕が最初じゃないかなと思いますね。
小暮:
私も先生と出会うまではあまり聞いたことなかったです。でも本当に窓一つで環境が変わっちゃうので、ここを本当のところでわかってない方は本来設計者と言えないと言うか。
松尾先生:
例えば、Ua値が0.8から0.7に変わっても体感するのは結構難しいかなって思うところもあるんですけど、吐き出し窓一枚ですね、例えば1.6m×2mくらいの窓が南に一枚あるかないかの違いは結構わかりますよね。
小暮:
それが6個もついていればね、随分違いますよね。
松尾先生:
やっぱり日射が当たる地域においては、日射の影響はすごいです。
小暮:
街中なんかも、なんでこの家で南をちゃんと向いているのに南側にこんな縦狭な窓が4つしかないんだろうとかね。それで西にすごいでかい窓があったりとか、あんなのはやっぱりデザインなんですかね。
松尾先生:
日射が、冬はどれだけありがたいもので、夏はどれだけ迷惑なものなのかっていう認識が設計者にもないんですね。
小暮:
消費者の方もイマイチわからないんでしょうね。
松尾先生:
皆さん風通しのいい家にしてくださいという要望はすごい何十年も前から多かったんですけど、日当たりのいい家にしてくださいっていうのも昔からあったと思うんです。ですが、夏の日射はそこまで悪影響を及ぼしているっていうのはまだあまり認識がない。西日だけに関してはありますけど、南の日光、東の日光に関しては悪いものではないって思っている方が多いと思いますね。
小暮:
これから皆さん家を建ててね、絶対に寒い家も嫌だと思うんですよ。新築でわざわざ建てたのに寒いなんて嫌だと思うんですね。加えて夏、どう考えてもこれから温暖化がくるわけで、すごい暑くてエアコン効かないっていうのも嫌だと思うんですね。それなのに、作った家は南の窓が小さいとか、西にこんなでかい窓があるとか、その瞬間にそれは無理ってわかるじゃないですか。ここのところは消費者の方でもわかると思うのでね、僕は住宅会社さんがわからなかったとしても、消費者の方はこれじゃダメだよって言えるぐらいの方がいいと考えます。
対談第三弾
Vol.1 Ua値やC値だけでは家の性能は語れない
Vol.2 太陽光発電は得か?損か?答えは明確
Vol.3 もしもの大災害は必ず起こると考える
Vol.4 住宅会社の営業トークは嘘だらけ
Vol.5 営業マンの嘘を見抜く方法
Vol.6 家を知らない人が家を売る怖さ
Vol.7 「断熱材で調湿」は「濡れた布団で寝る」のと同じ
Vol.8 窓と日射について抑えておくべき基本
Vol.9 営業マンより消費者の方が知識量は上
Vol.10 YouTubeの中にもたくさんの嘘がある
Vol.11 耐久性のポイントは耐震性と水害対策
Vol.12 おすすめできない製品・部材とは
Vol.13 カタログ数値に踊らされてはいけない
Vol.14 適正な断熱性能はこのように考える
Vol.15 30年先を考えたサッシの選び方
Vol.16 いつまでも美しい家のデザインとは