小暮:
松尾先生はYouTubeもされていますよね。登録者は確か36000人くらい?
松尾先生:
35000人くらいかな。(※取材時)
小暮:
私もやっているんですが、かなり今YouTubeを見ている人が多くて、うちのお客さんでも、ほぼ全員がYouTubeを見てこられている。当然先生のYouTubeを見られた方も多いんですけど、そうなると、住宅業界もYouTube効果と言うか、変わっていくものなのですかね?
松尾先生:
工務店の世界は確実に変わっていっていますよね。工務店の世界って、常によく勉強している社長さんたちが多くいて、東京から九州に行ったりとか、飛行機に乗って見に行ったりを結構やっている。工務店で熱心な社長さんっていうのは常に情報をリニューアルしているって感じなんですね。また、工務店業界だったら誰もが読んでいる新建ハウジングっていう情報誌なんかでも、新しくうまくいっている事例とか、耐震等級3の重要性とか断熱の重要性とか常に書いているので、読んでいる人たちは常にそれに触れているわけですからどんどん良くなっているわけです。
小暮:
そうですね。
松尾先生:
ですが一方で、やっぱり変わりにくいのは大手住宅メーカーさんです。大手住宅メーカーさんは中にいる限り、あまり外の情報を取りにいかない。商品の開発っていうのは技術研究所や商品開発部みたいなところがやっていて、その人たちが工務店の動向とかをそれだけ調査しているかはわかりませんが、普段メーカーの支店の営業マンっていうのは営業に明け暮れているし、設計の人も、すごい数のプランを次から次にやるだけで追われているから、今工務店業界がどうなっているのか、そもそも新建ハウジングみたいな情報誌も取ってないですし、すごく情報量が少ないんですね。
小暮:
もし逆に営業マンさんが新建ハウジングを取って自宅で読んでいたら、ギャップを感じちゃうんでしょうね。
松尾先生:
本当にできる人とか、良い住宅を建てたい人とかっていうのは、目覚めてやめちゃうパターンも結構多くありますね。
小暮:
今、住宅業界も良い方向に行っているような感じもしますけど、大きな会社のパワーはまだまだ大きくて、あと何年くらいかかりますかね、本当に日本の住宅が変わるのが。
松尾先生:
ひとり一条工務店さんだけが、その他大多数の大手住宅メーカーさんに対してポエムをしないで戦うっていうのをずっと3、40年やり続けてきたんです。リアルな真剣さを持って住宅市場に殴り込んできたわけですね。ポエム対真剣でやったらどちらが勝つかと言ったらそれはまぁ当たり前の話で。でももうその土俵では戦わないっていうことを他の大手住宅メーカーさんは決め込んでしまっている。
小暮:
一条工務店さんとは性能じゃないところで戦おうという戦略ですよね。例えば、一条工務店さんって性能はいいけどカッコ悪いので、デザインで勝つ、とかね。
松尾先生:
負けているところは素直に負けていると認める会社は僕はすごく良心的だなと思います。負けているのに適当なポエムで誤魔化そうとする会社とか営業マンがいるとしたら、それはすごい不誠実ですよね。
小暮:
他の大手の営業さんたちは一条工務店さんについて「あんなに断熱、気密ってことにムキにならなくていいですよ」って言っていたんですよね。
松尾先生:
逆に言うと、あなた方もうちょっとムキになった方がいいよって話ですよね。
小暮:
先ほどYouTubeの話が出ましたけど、最近住宅会社さんのYouTubeって増えましたよね。あとは建材メーカーさんもやっている。逆にYouTubeが増えることで問題点ってありますかね。
松尾先生:
やっぱり間違った情報を流しているところもありますので、それを見極める。心眼を見極めるということですね。だって別にYouTubeに査読が入るわけじゃないので、言ったもん勝ちみたいなところはあります。YouTubeも下手をすると、住宅業界でこれまでくり広げられてきたポエム合戦の戦場になるかもしれない。それを視聴者の方が見極められるかどうか。それと、そういうことをやるのが恥ずかしいと思う意識がYouTuber側にあるかどうか。
小暮:
アクセス稼ぎをやっている人もいますよね、明らかにね。
松尾先生:
正しいことを言っていたら、アクセス稼ぎはむしろいいことなんですよ。でも間違っていることがアクセス稼ぎになっているのは本当に害悪でしかない。
小暮:
消費者目線と言ったら消費者目線かもしれないけれど、全く関係のないことを言ってアクセス数を稼ぐ人もいますよね。あれはちょっとどうかなって思いますけどね。
松尾先生:
僕自身は逆に、YouTubeにおいてもできるだけ根拠を示すようにしています。計算、実測、論文とかそういう根拠ですよね。ただ、いきなり確率微分方程式みたいなのをそれっぽく書いたって、この人賢いなって見えるかもしれないけど、それも詐欺師だったらやりかねないテクニックになっちゃう。そうじゃなくて、1足す1は2みたいな、嘘が入り込む余地がないくらいの噛み砕いた根拠の出し方っていうのを、僕は結構気を付けているんですよ。
小暮:
ブログなんかもそういうのが見える時があるんですね。この前見たのは湿度についてですが、冬に最適な湿度っていうのがあるじゃないですか。一般に40から60%と言われますが、あれって正確には絶対容積湿度って、空気中の水分が8gから13gっていうね。その水分量によって温度が変わるわけだから、単純に40から60って言ったって、どこの温度で言っているかわからない。それを全く言わずに、これを守ることがいいんです、そうしないとウイルスにかかりますってね。これをプロが言っているとしたら、何なんだろうってね。
松尾先生:
結構詳しそうに見える人でも、実は詳しくなかったりみたいなこともあるし、それぞれの人の中で特に詳しい分野とそんなに詳しくない分野があるのも事実だし、僕なんか一般の建築士よりは構造のことは知っている方だと思いますけど、でも構造塾の佐藤さんほど構造のことを知っているのかって言われたら、足元にも及ばない。根拠にたえるっていうのもそうだし、その分野の第一人者の意見を重視することが大事で、要するにこれって強弱を見極めるっていうことなんです。自分が戦国武将だとして誰が強くて誰が弱いかっていうのを見分ける能力がなかったら、その人は戦国時代だったら死ぬわけですよね。
小暮:
住宅業界のYouTubeはもっと増えていくと思いますが、場合によっては間違った方向に行く可能性もあるので、ぜひ視聴者の方は気をつけていただきたいなと思います。
対談第三弾
Vol.1 Ua値やC値だけでは家の性能は語れない
Vol.2 太陽光発電は得か?損か?答えは明確
Vol.3 もしもの大災害は必ず起こると考える
Vol.4 住宅会社の営業トークは嘘だらけ
Vol.5 営業マンの嘘を見抜く方法
Vol.6 家を知らない人が家を売る怖さ
Vol.7 「断熱材で調湿」は「濡れた布団で寝る」のと同じ
Vol.8 窓と日射について抑えておくべき基本
Vol.9 営業マンより消費者の方が知識量は上
Vol.10 YouTubeの中にもたくさんの嘘がある
Vol.11 耐久性のポイントは耐震性と水害対策
Vol.12 おすすめできない製品・部材とは
Vol.13 カタログ数値に踊らされてはいけない
Vol.14 適正な断熱性能はこのように考える
Vol.15 30年先を考えたサッシの選び方
Vol.16 いつまでも美しい家のデザインとは